「お父さんはなんでいつも暗いの?」
6歳の娘にこう聞かれた時、私は何と答えていいか分かりませんでした。対人恐怖症について家族に説明することの難しさを痛感した瞬間です。
53年間の人生で、親には「甘えだ」と言われ、会社員時代の妻には「気合いで治る」と思われていました。でも起業し、子どもたちが大きくなる中で、正直に説明する勇気を持つようになりました。
すると驚いたことに、家族の態度が大きく変わったのです。今日は、家族のメンバーごとに「対人恐怖症を正しく理解してもらう伝え方」をお伝えします。
なぜ家族の理解が必要なのか
理由1:精神的なサポートの質が変わる
家族が症状を理解すると、無意識の励ましや無理強いがなくなります。
理解される前: 「ちゃんと頑張って」「もっと前向きに」という励ましが、かえって心を傷つけていました。
理解された後: 「今日は調子が悪いんだね。無理しなくていいよ」という言葉が、心の支えになりました。
理由2:家庭内の環境が整備される
家族が理解すると、症状が悪化する環境を一緒に避けることができます。
私の例: 妻が飲み会の誘いを「ご主人、調子が悪いみたいなので…」と断ってくれるようになりました。
理由3:親としての責任感を果たせる
子どもたちに「お父さんは怠け者じゃなく、こういう特性を持っている」と説明することで、子どもたちの自己肯定感にも良い影響を与えます。
配偶者への伝え方【段階1】
タイミングの選択が最重要
最適なタイミング:
- 二人きりで落ち着いた時間
- リラックスしているとき
- 対人恐怖症の症状が出ていない時間
避けるべきタイミング:
- 症状が悪化している時
- 夫婦喧嘩の直後
- 疲れている時
- 子どもが側にいる時
段階1:素直な気持ちを伝える
最初は「宣言」ではなく「相談」の形式が効果的です。
効果的な伝え方例:
「妻へのお願いがあります。今まで隠してきたことがあるんですが、話してもいいですか?」
と前置きして、落ち着いた雰囲気を作ります。
「実は僕、人間関係が苦手で、人前に出るとすごく緊張してしまう『対人恐怖症』という症状があるんです。医者にも診てもらっていて、治療もしています。
今まで隠してきたのは、『甘えだと思われたくない』『あなたに心配をかけたくない』という気持ちからです。でも、これからは隠さずに、あなたの協力をお願いしたいと思います」
段階2:具体的な影響を説明する
症状がどのような形で生活に影響しているかを、分かりやすく説明します。
具体例:
「例えば、新しい人間関係が苦手なので、飲み会などの大人数のイベントは精神的に疲れます。その後は数日、気分が落ち込むことがあります。
また、朝起きて『今日は重要な会議がある』と分かると、朝から不安になってしまいます。これは努力や気合いで何とかなるものではなく、脳の神経伝達物質の関係で、そういう状態になってしまうんです」
段階3:配偶者への協力を具体的に依頼
「甘えて欲しい」のではなく「パートナーとして支えて欲しい」という姿勢が大切です。
具体的な協力依頼例:
- 調子の悪い日の理解 「調子の悪い日は、仕事のパフォーマンスが落ちることがあります。その時も『頑張れ』ではなく『無理しないで』と言ってもらえると嬉しいです」
- 必要に応じた代行 「飲み会や学校の懇談会など、どうしても出席が必要な場合、事前に相談させてもらえますか?」
- 症状への受容 「完全に治ることは難しいかもしれません。でも工夫次第で、普通に生活・仕事ができます。それをあなたにも理解してもらいたいのです」
段階4:配偶者の不安や質問に向き合う
配偶者も不安を持っています。それに真摯に向き合いましょう。
配偶者から出やすい質問と回答例:
Q:「それって、治るの?」 A:「完全には治りませんが、症状は軽くなります。既に医師の指導で改善しています。また、工夫次第で普通の生活・仕事は問題なくできます」
Q:「家計に影響があるの?」 A:「今のところ仕事のパフォーマンスに大きな影響は出ていません。ただ、治療費や必要に応じたサポートがあるかもしれません」
Q:「子どもに影響があるのか心配…」 A:「遺伝的な可能性は0ではありませんが、親の対人恐怖症そのものが子どもに必ず遺伝するわけではありません。むしろ、親の対応の方が重要です」
配偶者が理解を示した時の反応
効果的な返答: 「理解してくれてありがとう。本当に心強いです。これからも一緒に乗り越えていきましょう」
感謝の気持ちを明確に伝えることが大切です。
親への伝え方【段階2】
親との関係性を踏まえた対応
親によっては「弱さを見せるべきではない」という価値観を持つ場合もあります。
親のタイプ別対応:
タイプA:理解しようとしてくれる親 症状や治療について、率直に説明。質問に丁寧に答える。
タイプB:心配しすぎる親 「治療を受けており、今は安定している」とポジティブに伝える。過剰な心配を避ける。
タイプC:批判的な親 詳しく説明するより「工夫することで対応している」と簡潔に伝える。理解を強要しない。
段階1:親の価値観を尊重しながら説明
効果的な伝え方例:
「親父、母さんに話があります。実は僕、人間関係が苦手で『対人恐怖症』という症状があります。
昔は『気の弱さ』と思ってましたが、医学的には脳の神経伝達物質の関係で起こる症状なんです。あなたたちの育て方が悪かったわけではなく、そういう体質なんです」
段階2:実績を示す
親を説得する最大の方法は「実績」です。
親に示すべき実績:
- 長年安定した仕事を続けている
- 家族を養っている
- 治療を受け、改善している
- 起業に成功している(起業者の場合)
「これだけの実績があるのは、対人恐怖症があっても、工夫次第で対応できるからです」
段階3:親への感謝を伝える
批判や誤解があった過去を責めるのではなく、感謝の気持ちを伝えます。
効果的な表現: 「昔は『甘えだ』と言われたことがありますが、それは親父・母さんが厳しく育ててくれたからこそ、今の僕があるんだと思います。
その厳しさがあったから、対人恐怖症を持ちながらも、ここまで頑張ってこられました。本当にありがとうございます」
子どもへの伝え方【段階3】
年齢に応じた説明方法
子どもの理解度は年齢によって大きく異なります。
幼い子ども(3-6歳)への説明:
「お父さんはね、大勢の人がいるところにいると、すごく疲れちゃうんだよ。だから、静かなところで休むことが大事なんだ。
でも、これは『ダメなこと』じゃなくて、みんなそれぞれ得意なことと苦手なことがあるのと同じなんだよ」
小学生(7-12歳)への説明:
「お父さんは『対人恐怖症』という症状があるんだ。これは、人間関係が苦手で、大勢の人の前では緊張してしまう症状なんだよ。
でもね、これは『怠け者だから』とか『弱いから』じゃなくて、そういう脳の特性なんだ。例えば、君が音の大きいところが苦手な子がいるように、お父さんは人の多いところが苦手なんだ」
中学生・高校生(13歳以上)への説明:
「実は僕、『対人恐怖症』という精神疾患を持っている。これは社会不安障害とも呼ばれ、人間関係や対人場面で過度な不安を感じる症状だ。
現在、治療を受けており、症状は改善している。お前たちに遺伝する可能性はゼロではないが、親の対応と本人の工夫で十分に対応できる。
大事なのは『そういう人間もいる』という多様性を理解することだ」
段階2:親自身が模範を示す
言葉以上に、行動で示すことが重要です。
子どもに見せるべき行動:
- 治療に真摯に取り組む姿勢
- 症状があっても家族の責任を果たす
- 完璧でなくても前に進もうとする努力
- 支援者(配偶者、医師)と協力する
私の実例: 子どもたちに、月1回の通院を隠さずに伝えています。「お父さんは医者に相談して、自分の心を大切にしているんだ」というメッセージが伝わるようにです。
段階3:子どもの質問に正直に答える
子どもは鋭い質問をします。それに誠実に答えることが信頼につながります。
子どもからよくある質問と回答例:
Q:「お父さんはなんで飲み会に行かないの?」 A:「大勢の人がいるところは、お父さんにとって疲れる場所だからね。お父さんは自分の心の健康を大事にすることにした。それは決して悪いことではなく、自分を大切にすることなんだ」
Q:「僕も対人恐怖症になるの?」 A:「そういう可能性はゼロではない。でも大事なのは、もし似たような特性があったら、早めに大人に相談することだ。お父さんのように放っておくのではなく、早期対応で症状は軽くできるんだ」
Q:「お父さんは弱いの?」 A:「弱いのではなく、そういう特性を持っているんだ。むしろ、その特性を理解し、工夫する力は強さだと思う。完璧でない自分を受け入れることも、大事な強さなんだ」
段階4:兄弟姉妹間での情報共有
複数の子どもがいる場合、情報がばらつかないようにしましょう。
効果的な方法:
- 基本的な説明は同じ内容で統一
- 年齢差に応じた補足説明は個別に
- 「お父さんの秘密」としない(普通のこととして扱う)
親族・親しい友人への伝え方
いつまで隠すのか判断する
起業して6年経った私は、もはや「秘密」にしていません。
伝えるべき人:
- 親しい友人(月1回以上会う人)
- 一緒に長期プロジェクトを進める同僚
- 子どもの友人の親(親しい関係の場合)
伝えるべきでない人:
- 一度きりの関係
- ビジネス上の浅い付き合い
- 本人から尋ねられていない人
親族への伝え方
義実家や親戚への説明例:
「実は○○は対人恐怖症という症状があります。医者に診てもらっており、治療も受けています。
お忙しいところ申し訳ありませんが、大勢の場面では調子が悪くなることがあります。ご理解いただけましたら幸いです」
親しい友人への伝え方
親友への説明例:
「お前に話しておきたいことがあるんだ。実は俺、対人恐怖症という症状があってね…」
親友なら、素直に話して問題ありません。大抵は「そっか、そういうことだったのか」と理解を示してくれます。
よくある失敗パターンと改善方法
失敗1:完全な理解を求める
失敗しやすい人の特徴: 「絶対に理解してもらいたい」と力説する
改善方法: 「理解してもらえたら嬉しい。でも100%理解できなくてもいい。ただ、存在を認めてもらえたら」という姿勢に変える
失敗2:症状を言い訳として使う
失敗しやすい人の特徴: 「対人恐怖症だから…」と責任回避する
改善方法: 「対人恐怖症があるけれど、工夫して対応する」という前向きな姿勢を示す
失敗3:一度の説明で完全に理解させようとする
失敗しやすい人の特徴: 長い説明で家族を疲れさせる
改善方法: 複数回に分けて、段階的に説明。最初は「こういう症状がある」程度にとどめ、質問に応じて詳しく説明
失敗4:家族の気持ちや質問を無視する
失敗しやすい人の特徴: 一方的に症状の説明をして終わり
改善方法: 家族の不安や質問に真摯に向き合う。「分からない」ことは「分からない」と認める
説明後の関係構築
定期的なコミュニケーション
一度の説明では終わりではありません。定期的に状況を共有しましょう。
月1回の家族会議(私の実例):
- 仕事の状況報告
- 症状の現在地
- 今月の課題と来月の目標
この会議により、家族が「サポーター」から「チーム」へと変わります。
感謝の言葉を忘れずに
説明後も、定期的に感謝を伝えることが大切です。
効果的な感謝の伝え方:
- 具体的に「○○してくれてありがとう」と言う
- 月日を決めて(例:毎月最後の日曜)感謝を伝える
- 言葉だけでなく、行動で示す(できる範囲での家事分担など)
一緒に改善を目指す
「対人恐怖症と闘う」のではなく「対人恐怖症と一緒に生きる」という姿勢を家族に示しましょう。
効果的なアプローチ: 「これから一緒に、この特性と上手に付き合う方法を探していきたい」 「君たちのアイデアや工夫も大歓迎」
このように、家族を「対等なパートナー」として扱うことで、真の理解が生まれます。
実体験:妻や子どもたちの反応の変化
妻の変化(起業から3年目)
最初:懐疑的 「本当に起業で成功するの?」という不安がありました。
現在:理解と応援 「調子が悪い日は無理しないで」と声をかけてくれるように。そして、事業の相談相手にもなってくれています。
長男(当時13歳)の変化
最初:理解不足 「お父さんはなぜ飲み会に行かないの?」と疑問を持っていました。
現在:同情から尊敬へ 「お父さんは自分の心を大切にしてる」という理解に。今では「僕も無理しない大人になりたい」と言ってくれるようになりました。
次男・娘の変化
二人は対人恐怖症について、普通のこととして捉えています。「お父さんはこういう特性がある」という事実を、特別視せずに受け入れています。
読者の皆さんへのメッセージ
対人恐怖症を家族に説明することは、確かに勇気が要ります。「理解されないかもしれない」という不安もあるでしょう。
でも私の経験から言えることは、正直に、誠実に、段階的に説明することで、ほとんどの家族は理解を示してくれるということです。
大切なのは「完全な理解」を求めることではなく、「存在を認めてもらう」ことです。そして、その認識の上に、一緒に対人恐怖症と付き合っていく方法を探ることなのです。
もしあなたが今、家族への説明を迷っているなら、この記事を参考に、小さな一歩を踏み出してみてください。
あなたの経験や、実際に家族への説明がどのような反応だったか、ぜひコメントで教えてください。同じような悩みを持つ方の励みになると思います。
一緒に、対人恐怖症と向き合い、家族との関係を深めていきましょう。


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